ホーム >  ピックアップ がんばる人間工学家! > 第9回 渡里 司さん(公益財団法人 中国地域創造研究センター)

ピックアップ がんばる人間工学家!

インタビュー企画 ピックアップ がんばる人間工学家

第9回
渡里 司さん
公益財団法人 中国地域創造研究センター

第9回の「がんばる人間工学家!」は、中国地域の産業振興に関わる仕事に従事されている中国地域創造研究センターの渡里司さんと前川昭さんです。コロナ禍のため残念ながらオンラインインタビューになりましたが,中国地域,広島地域での取り組み事例についてお話を伺いました。

人間工学に携わったきっかけ
横山



渡里 司
(わたり つかさ)
プロフィール
1971年広島市生まれ。
1999年,広島大学大学院国際協力研究科修了。同年,(社)中国地方総合研究センター(現(公財)中国地域創造研究センター)に入社。商品開発・マーケティング分野のほか,エネルギー・環境関連分野の調査研究に従事。2010年より受託調査を機会に人間工学・感性工学を活用した企業支援に従事。

ご所属についてお聞かせください。
渡里
当研究センターは昭和23年に設立しました戦後復興の都市計画を中心とした調査機関と,ものづくりなどの産業振興を行う公的支援機関の2つが統合して設立された公益財団法人です。現在では中国地域の試写会調査分析から,ものづくり支援まで一貫してサポートし,資金的な支援までを行っています。
横山
人間工学に携われるきっかけは?
渡里
私は大学院では森林管理,環境問題を学んできました。人間工学との関わりは10年前に行った調査事業からです。それは先端的な計測・分析技術を今後どう産業に活かすかというもので,その中で,感性工学,人間工学など人に関わる計測・分析技術の調査を行ったことがきっかけになります。
横山
10年前の先端的な計測・分析技術の調査事業について教えてください。
渡里
当時はナノレベルの微細な計測・分析技術がトレンドであった時期でした。計測・分析機器の国際的な展示会でこうした機器はたくさんありましたが,あいまいな人の感情や行動を計測・分析する技術,機器が相対的に少なかったので,中国地域で取り組んでいきましょう、という形で提案した調査でした。
横山
企業に人の曖昧な感性を計測したいというニーズがあったということですか?
渡里
中国地域は重厚長大の産業が多いため,コンビナート企業などを中心に微細・微量物の計測・分析技術のニーズが相対的に多かったのですが,B to C向けの製品を開発・販売している主な企業では,人の感情とか行動とかを捉えていきたいというニーズが傾向として多くみられました。



横山
では,その調査結果を受けて次のアクションはどのようなことをされたのですか?
渡里
(「感性探求の最前線)」という冊子を示しながら)この中にも書いているのですが,翌年度、質感色感研究会*1)というものが組織されました。触る感じ,色味などを研究したい企業さんが参加して自社製品の新商品開発に取り込んでいこうという取り組みが行われています。特に人間工学,感性工学を活かして,新商品開発に結び付けようという取り組みであり,現在も継続しています。



横山
質感色感研究会の具体的な活動を教えてください。
渡里
企業,研究者(大学や,民間の専門家),公設試の3者を繋いで,企業の製品開発を支援しています。その成果としては,例えば,㈱シマヤさんの商品のネーミング,㈱サンラインさんの釣り糸の視認性の研究,ダイヤ工業㈱さんのサポータの腹部等への圧迫力調査,㈱心石工芸さんのソファのニーズ調査から商品マッピングによる差別化,(有)瑞穂さんにおける熊野化粧筆の肌の接触の調査などがあります。
また,別の動きとして,「ひろしま感性イノベーション推進協議会」*2)という活動があります。先ほどの調査研究や質感色感研究会の設立時は,リーマンショック後で新しい産業振興策が求められていました。広島県では,産業振興策として感性の把握に着目し,予備調査後,2014年には産学官からなる協議会を立ち上げました。現在(2020年4月時点)では174社,43機関が参画しています。大きな組織になりました。具体的には,人間工学や感性工学の普及啓発やセミナーによる人材育成,協議会の会員企業同士で商品モニターを行うモニター制度,専門家派遣マッチングの支援を行っており,34名の専門家を協議会では登録しています。こうした人間工学,感性工学を活かした取り組みが,現在では,広島大学,中国経済産業局,地方公設試,広島県の産業支援機関,協議会の事務局を行っている広島県など,機関連携の下,人間工学,感性工学のプロジェクト化が多面的に進められています。また,協議会では,成功事例の紹介も行っています。成功事例集という冊子を作成しているのですが,その中で,ソファ,お好み焼き,椅子,スニーカなどの製品開発の事例紹介を行っています。例えば,靴底の圧力分布による足への影響の検討調査から,どういう形でブランディングにつながる価値化をしていったか,というところまでまとめています。
人間工学の普及啓発で大切なこと
横山
人間工学,感性工学はまだまだ中小企業に広まっていないところもあると思います。普及啓発の取り組みで大事なことは何ですか?
渡里
我々は機動力が強みです。人的ネットワークを活かして企業へのヒアリング,御用聞きを行い,企業さんの困りごとを把握するように努めています。足でかせぐという地道な取り組みが大事だと思っています。また,大企業では開発でのマンパワーがありますが,中小企業は,人間工学,感性工学は良いものだとはわかっているけど,なかなか手が回らないというところが多いものです。調査・分析を一緒に行うということも強みです。
山田
支援に対する費用は?
渡里
質感色感研究会も協議会も入会費や参加費,専門家の指導を受ける際の謝金等の費用は発生しませんただし,製品開発にかかる材料費など実費は各企業の負担になります。
企業と専門家とのマッチング









横山
企業と専門家のマッチングにコツはありますか?
渡里
相談のあった企業にどの専門家が合うのだろうか?企業さんの話を基に大学や専門家にアプローチをしてマチッチングをするのですが,まず自らが興味を持って調べることがコツかもしれません。マッチングでは中国地域に限った専門家や既存の取り組みではなく,企業さんのニーズに合う全国の大学や研究機関を調べるなど,国内の広い範囲を見るようにしています。現状,中小企業にとっては「人間工学」といった場合,まだまだ身近ではないと思われます。大学の先生や研究者に尋ねたいと思っても,まだまだ敷居が高い感もあると思われます。
横山
講座や研修について教えてください。
渡里
協議会の実践講座は2015年度から始まりました。最初は7日間の講座を組みました。午前中に座学,午後にグループワークというかたちで,参加された異業種の企業さんをグループに分け,人間工学,感性工学による価値づくりプランを立てる実習を行いました。一線級の先生を集めた自負もあるので,東京の企業さんも受講されました。
横山
経営者向けとは?
渡里
経営者向けのセミナーは,人間工学,感性工学を活用したら良いことがある、ということを経営者に知ってもらうため,講師にはマーケティングやブランディングの視点も含めて話をしてもらっています。こちらも一線級の先生方にお願いし,コスト削減や商品化事例の紹介もしていただき,組織内で開発者に「ちょっと行って勉強してこい。」と言ってもらえるように工夫しています。やはり中小企業さんも人間工学,感性工学がブランディングの材料になると思われて聴講されますので,できるだけご期待に沿うように,ざっくばらんに質問できる雰囲気をつくるよう努めています。
横山
渡里さんも講師をされているみたいですが?
渡里
我々がサポートしているのは,近年のオプション講座です。大学の講義を1日で理解してもらうのに概念的なところが最優先です。先生方の実践講座の復習の意味合いで,前回授業のフォローやノウハウをご紹介しています。自分もこの分野に携わって10年くらいしか経っていないので,受講者の視点に立って補足説明をしていくということを心がけています。
横山
今まで聞いてみてもプロデューサーであったり,担当の実務者であったりと幅広い取り組みをされているのが分かりました。苦労されたこともあったと思いますが。
渡里
企業の製品開発のスピード感を踏まえて支援をしていくことが苦労するところです。企業と専門家でもスケジュール感が違っているのでそこをあわせたり,専門家の方は論文レベルの厳密性を求めるため,調査のデータ数をどこまで増やすかなど,時間とお金のバランスを取りつつ調整しています。本来ならブランディングの素材となるべく,全く非の打ちどころがない学会論文レベルのデータをとるところまでできれば望ましいのですが。
横山
良かったこと,楽しかったことは?
渡里
私は学生時代から製品開発に携わりたかったので,こうした事業を通じていろいろな企業の商品開発に携われるので純粋に楽しいですね。さらに,全国の先生やいろんな業界の方との関わりができて,人的ネットワークが広がったり,全然違う研究分野の先生も成果をつくりあげる中で人間工学分野に繋がることが必ず出てくるので,いろんなご意見・ご感想・見識を得られることですね。
今後に取り組みたいこと
横山
最後に,今後,取り組みたいことは?
渡里
現在,広島地域の7機関が連携して同じベクトルを向いて取り組んでいます。「広島地域,中国地域はおもしろいね。広島に来ると新しい視点でものづくりができる。広島で相談してみるか,何か新しい取り組みが生まれるかもしれない。」と,パッと思い出してもらえるような地域にしたいと思っています。
全国から広島に相談に来ていただくには,相談窓口,ラボ的な拠点なども必要です。地元7機関が連携した取り組みとして発展していければと思っております。
横山
感性ラボ構想ですね。一緒にがんばっていきましょう。
山田
最後に,学会の広報委員として多少,耳の痛いところもありましたが,地域の取り組みを知る機会が少ないのも事実です。学会も踏まえて何か一緒にできることもありそうですので,ぜひ今後,地域の取組との連携をお願いしたいところです。本日はありがとうございました。


注:
*1:質感色感研究会 https://crirc.jp/jigyonaiyou/rd/shitsukan/
*2:ひろしま感性イノベーション推進協議会 https://www.h-kansei.jp/

インタビュアー:横山詔常(よこやま のりつね)
広島県立総合技術研究所西部工業技術センター 主任研究員 認定人間工学専門家
ユーザビリティ評価など地域中小企業のものづくり支援に従事。人体形状や動作・作業分析に関する研究開発を行う。

インタビューサポーター:山田クリス孝介(やまだくりすこうすけ)
慶應義塾大学SFC研究所 上席所員 博士(工学)
専門は、ストレスの測定と評価、ストレスマネジメント、医療機器の人間中心設計、現場参加型研究など。

「ピックアップ がんばる人間工学家!」一覧へ戻る


 


ページのトップへ